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性に溺れる私
第2章 【先生の監視】
「藍沢さん、教科書見せて」
隣の席に座るクラスメートがそう声を掛けてきた。
数秒間固まる私に気さくに笑い飛ばしてくれる彼は楽しそうに会話を続けてくる。
「酷いなぁ、この前の席替えで挨拶したでしょ!俺の名前もう忘れた?」
赤色がかった茶髪のキラキラした瞳。
顔は覚えてる。
人懐っこくて常に和の中心に居るような人柄。
初めて話したわけじゃないのに……よく思い出せ。
「えっと……猪俣くん?」
「プハッ!それはコイツ!」
後ろの席を指差して豪快に笑う。
あ、彼も一緒に話してたこともあったからこんがらがっちゃった。
つられて周りも笑うから一気に視線を浴びるハメに。
そうか、やっぱり彼はクラスの人気者に違いない。
何度か下の名前で呼ばれてるのを聞いたことがある。
「さぁ、覚えてるよね?初日に結構喋ったよね?俺と」
「うん……喋った」
しまった、こういうクイズ形式苦手なんだよな。
「俺、何部だっけ?」
「……バスケ部」
「そう!覚えてるじゃん」
「うん…中高バスケ部だったって言ってた」
その時、教室のドアが開いて教科担当の先生が入って来た。
号令がかかり挨拶したら授業が始まる。
座るやいなや隣の彼が手を挙げて教科書を忘れたと申し出ている。
「またか、穂高」
まさか教科担当から答えを聞くことになるとは彼も想定外だったらしく名前当ては呆気なく幕を閉じたかのように思えた。
「隣の藍沢さんに見せてもらいまーす」と席をくっつけて来た。
私も寄って真ん中に教科書を置いてあげる。
「ありがとうね」
「次は忘れないでね、猪俣くん」
「えっ!?」
周りからクスクスと堪える笑い声が聞こえる。
勿論わざとだけどもう私の中で彼は猪俣くんなのだ。
ページを捲ってくれて有り難いけど、たまに走り書きしてるメモや授業中暇で書いた先生の似顔絵などを見つけられ吹き出してる。
「ヤベ…藍沢さんってこんなキャラだっけ?」
教科担当に聞こえないトーンで話しかけられる。
「え?」と顔を近付けたら結構近くに顔があってお互い照れる。
アオハルかよ。