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わたしを見ないで
第4章 指名返し
 最後の客を見送ったのは日付を跨いだ頃だった。


 化粧ヨレヨレの顔で事務所に戻ると、店長がわたしを奥の部屋に連れて行った。
 部屋と言っても事務所の一角をパーテーションで仕切っただけの狭苦しい空間だ。
 黒い皮張りソファが向かい合う形で二脚、その中央にガラス天板のテーブルが設置されている。
 入店時の面接もこの場所だった。
 促されるまま奥のソファに座ると、店長も腰を下ろした。



「1本目のお客さん…
 半年前にうちの店を卒業した子のご指名さんだったんだ。デビューからずっと一途に浮気せず卒業まで通ってくれてたよ。
 この業界は、そういうお客さんをいかに多く集められるかが、稼げる子と稼げない子の分かれ道だからね。嫌なことや無理なことは上手くあしらえるように頑張っていこう。困ったら遠慮なく相談してくれたら僕たちも力になるから。今日は1日よくがんばったね」


 店長はそれだけ言うと、ニコッと笑った。
 わたしは黙ったまま深く頷くしかなかった。


「お疲れ様。また明日も待ってるね」


 立ち上がったわたしの肩を店長が2回ポンポンと優しく叩いてくれた。
 ワッと泣き出したわたしを、店長はどんな顔で見ていたんだろう。



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