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わたしを見ないで
第4章 指名返し
「忙しいんだねー」


 なんて言ってるうちに篤志くんはホテル入口から出てすぐにわたしに向かって「じゃ」と言った。


「今日車だから」 


 親指でうしろを指している。
 ホテル街の奥にパーキングがあるんだろう。
 わたしはなぜかちょっと寂しく思いながら頷いて見せた。


「篤志くんまた来てね」


 そう言ったのは半ば本心だった。
 誰も知らない自分として働いているときに、わたしを知っている人にひとときでも会えるのは毒であり薬でもあるような気がした。
 篤志くんは口元をニッコリさせて白い歯を見せてわたしに言った。


「ま、気が向いたらね」


 わたしはホテル街の向こうに消えていく篤志くんの大きな背中が見えなくなるまで見送ってから、事務所に戻った。




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