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化け物
第1章 化け物
わたしたちは日が傾くころ、海を見に行くのが日課になっていた。
聡の首の傷はケロイドになってしまった。
赤くてグロテスクな傷跡。
聡はその穢らしい傷を気にした試しがあったのだろうか。
身なりに無頓着な聡はいつもボサボサ頭で、部屋着のまま着替えることもなく、決まって日が傾くころ歩いて海岸に向かった。
わたしはいつもその背中について歩いた。
聡は途中ブロック塀があれば必ず登って歩き、段差があればジャンプする。
猫がいればしゃがんであやし、逃げられたら残念そうに立ち上がる。
そして決まって振り向いて、綺麗に並んだ歯を見せながらわたしに微笑むのだった。
「お姉ちゃんは元気にしてるかな?」
決まってわたしにそう尋ねる聡の目の焦点は合っているはずなのに、わたしの瞳をしっかり見つめているのに、目が合わなくなったのはいつからだろう。
聡のだらしないベージュのサマーニットとグレーのハーフパンツが夕暮れの潮風に吹かれ、バタバタと音が鳴っている。
「…知らない。きっとどっかで誰かに迷惑かけながら生きてんじゃない?」
なかなか点かない煙草のライターに格闘する聡のしかめっ面が不思議だった。
やっと点いた煙草を味わう聡の険しい横顔を見上げながらわたしはいつものように、そのがっちりした肩にもたれかかる。
「ねー、さとしー」
空はオレンジ色で、海はキラキラ白く光っていて、波打ち際は紺色。
夕日が沈んでゆく。
潮風になびいて顔にかかる長い髪をそのたび律儀に手で払いながら、わたしは隣りにいる弟の横顔と首のケロイドを指でなぞった。
「いまの聡のお姉ちゃんはわたしなんだよ?わかってる?」
聡の首の傷はケロイドになってしまった。
赤くてグロテスクな傷跡。
聡はその穢らしい傷を気にした試しがあったのだろうか。
身なりに無頓着な聡はいつもボサボサ頭で、部屋着のまま着替えることもなく、決まって日が傾くころ歩いて海岸に向かった。
わたしはいつもその背中について歩いた。
聡は途中ブロック塀があれば必ず登って歩き、段差があればジャンプする。
猫がいればしゃがんであやし、逃げられたら残念そうに立ち上がる。
そして決まって振り向いて、綺麗に並んだ歯を見せながらわたしに微笑むのだった。
「お姉ちゃんは元気にしてるかな?」
決まってわたしにそう尋ねる聡の目の焦点は合っているはずなのに、わたしの瞳をしっかり見つめているのに、目が合わなくなったのはいつからだろう。
聡のだらしないベージュのサマーニットとグレーのハーフパンツが夕暮れの潮風に吹かれ、バタバタと音が鳴っている。
「…知らない。きっとどっかで誰かに迷惑かけながら生きてんじゃない?」
なかなか点かない煙草のライターに格闘する聡のしかめっ面が不思議だった。
やっと点いた煙草を味わう聡の険しい横顔を見上げながらわたしはいつものように、そのがっちりした肩にもたれかかる。
「ねー、さとしー」
空はオレンジ色で、海はキラキラ白く光っていて、波打ち際は紺色。
夕日が沈んでゆく。
潮風になびいて顔にかかる長い髪をそのたび律儀に手で払いながら、わたしは隣りにいる弟の横顔と首のケロイドを指でなぞった。
「いまの聡のお姉ちゃんはわたしなんだよ?わかってる?」