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化け物
第1章 化け物
 新しい土地は日本地図を開いてもパッと指をさせないようなところだった。
 駅前にデパートと商業施設があったお陰で母は人間でいられたのだと思う。

 田舎なのに人間関係が希薄で、部屋の窓からは濁った海が見えた。

 父は自営業で、パソコンと電話などがあればオフィスを持たなくて済む職種だったから、生活には一度も苦労しなかった。しかし、どこかに出掛けたり娯楽を楽しみたいと思える生活でもなかった。


 化け物は時々、お腹の中にいたころに戻ったみたいに布団の中でわたしと二人きりで裸で過ごしたがった。穢らわしいことに、化け物が気が済むまでの時間は退屈しなかった。同じ腹を棲家にしていたからだろうか。
 父はどんな思いで家中に響き渡るほどのわたしの素直な声を聞いていたんだろう。

 

 もう疲れずに済む、とでも思っただろうか。



 化け物は気が済むと昔の聡に戻ったように笑い、よく喋り、わたしの知らない知識を教えてくれたりした。
 わたしの可愛い弟は知らない男の人みたいで、お姉ちゃんの同級生を刺した少年で、赦されなかった人間だった。

 どんなにまともそうな会話を重ね、冗談を言い合って笑っても、聡の瞳の奥と目が合うことは絶対になかった。


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