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† 姫と剣 †
第6章 アノア王国
目を見開くルシアに、ロイは「ん…」と声を詰まらせる。
その美しい深緑の大きな瞳に心奪われて、少しだけ時が止まる。
「何をおっしゃいますか!! 少しどころか全然違いますよ!」
そう言って、ルシアはまたページをめくってある行を指し示す。
「例えばこことか!」
少し必死なルシアに、フフと笑いながらロイは言われるがまま本を覗き込む。
ロイの言う通り、ローハーグとアノアの使用する言語は同じである。
だが、やはり方言の様なものはある。
一応ローハーグの使う言葉が共通語ということになっているため、ロイは昔からそれを習い、公式な場では使用する。
使い分けるロイにとって、そこまでの大きな違いではない認識だったが、ルシアの指摘する文章を見ると、結構な違いであることに改めて気付かされる。
「なるほど…」
「こういう、エッセイに近い様な小説だと少し言い回しが違うだけで作品から醸し出される雰囲気が全然違うんです」
ルシアはそのページに綴られた文字を指でゆっくりとなぞる。
「こっちの方が作者に近付けた感じがしていいですね……」
優しい笑みを見せるルシアの横顔を見つめながら、ロイは胸が締め付けられるのを感じた。
そして、背もたれに乗せていた腕を下ろし、ルシアを優しく抱え込むと、ゆっくりとルシアの額にキスを落とした。