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† 姫と剣 †
第1章 お忍び
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早足が、いつのまにか駆け足に変わる。
その速度は日に日に早くなる。
林の中で服が汚れることも厭わずに……
ルシアはそんな自分に気付いていた。
あの日から毎日毎日……
同じ時間に街へ来て、そしてマヤをうまく撒いて、同じ場所へ向かう。
また会えたらという期待と、今日は会えないかもしれないという不安の2つを抱えてながらも、丘の上へ向かう。
そして今日は……
「良かった……」
草むらに寝転ぶリューイを見つけて、思わず微笑む。
リューイはチラとルシアを一瞥したのちに、また来たか、と言った。
「そんなこと言って、あなただっていつもここにいるじゃない」
「別に責めたわけじゃない。それに俺はこの場所が気に入っているんだ」
そう言って、頭の下に腕組んで目を瞑っている。
気に入っているとはいえ、自分のことが嫌だったらここには来ないはず。
期待してもいいんだろうか……
そんなことを思いながら、ルシアはさらに胸が高鳴るのを感じた。
ただ、同時にこの気持ちを大きくするのを止めたいと思っていた。
この関係を進展させたって何も意味はないのだ。
ルシアはこの国の姫───
ついに明後日に迫った成人の儀。
それを終えてしまえば、もうこのようにお忍びで街へ来ることは出来なくなってしまう。
そろそろ、この場には来れなくなることをリューイに伝えるべきかもしれない。
分かっていても、リューイと会えなくなるという現実に目を背けたくて、言えない日々が続いている。
それにリューイにとってはそんな情報、もしかしたらどうでもいいかもしれない。
ルシアははぁ……と小さくため息をつくと、リューイのそばに座った。