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† 姫と剣 †
第7章 決意
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ローハーグ帰国予定日、前日。
手を引かれるがまま、ルシアはロイの後をついて行く。
心地よい緑の香り。
少し勾配のある道にやや息が上がる。
ロイの長い黒髪がなびいて、後ろに立つルシアの頬をかすかにくすぐった。
「着きました」
丘の上。
見晴らしのよい場所に辿り着くと、ルシアは目の前に広がるアノアの街並みを眺めた。
砂漠の中の奇跡の国。
色鮮やかな光景は何度見ても圧巻だ。
爽やかな風が運ぶ少しだけ甘い香りは、サワン畑などの果樹園から香ってくるものなのだろうか。
「最後にアノア全体をお見せしたいと思いまして」
「本当に素敵な国、ですね」
本だけだったルシアの知識に色がつく。
少しだけ不安そうに微笑んだロイは、そのまま丘の一番高い草の上に腰を下ろして、片膝を立てた。
「昔から、ここに座って、こうやってこの国を見渡すのが好きでした」
ルシアは、ぼんやりと景色を眺めるロイの隣にそっと座る。
「街にも、よく行っていた、とかおっしゃっていましたよね」
「ええ。街に行って、畑を回って、最後にここにたどり着いて全体を見渡す…」
「………」
「昔はそれだけのことが楽しかった」
ふふと笑ったロイの横顔をじっと見つめる。
どことなく、今日は朝からロイの顔に不安が見える。
それが少しルシアは気になっていた。