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† 姫と剣 †
第1章 お忍び
「ルビー!走れ!」
雷で縮こまっていた体に力が入る。
この前、手首を掴まれたのとは違って、しっかりと手を握られている状況に、ルシアの胸が跳ねた。
そして、リューイの速度に懸命についていこうと、足を前々と出す。
リューイの言う通り、一気に雨が降り出して2人の体を濡らす。
そんな惨事でも、ルシアはこの時間がもっと続けばとすら思っていた。
丘を降って、林の奥、現れた小屋の前でリューイは速度を緩めると、ルシアから手を離した。
「リューイ……? ここは…?」
「俺の家だ」
「えっ……」
リューイは、静かにそう言うと、小屋の扉を開く。
ふわりと家の温もりがルシアの体を包む。
ぽたぽたと服から雫が垂れる音が響く中、ルシアは部屋の中を見回した。
こじんまりとしていて、整頓されている様子。
物は多くないが、言いようのない温かみに溢れた空間に、癒されていると、リューイはルシアにタオルを渡した。
「あ、ありがと…」
「今、暖炉に火をつける」
そう言って、奥の暖炉に向かったリューイを見ながら、ルシアは頭の布を脱いだ。
濡れた顔を借りたタオルで拭くと、心地よい香りが立ち込めた。
火のついた暖炉の薪がパチパチと音を鳴らす。
リューイは両手を叩いて汚れを払うと、振り返ってルシアを見つめた。