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† 姫と剣 †
第8章 刺客
見送りをしたあと、ロイはその足でアノアの丘の上に向かい、辺りを眺めていた。
まだ見えぬルシアの馬車を探して、ロイは目をこらす。
先ほど離れたばかりだというのに、もうルシアが恋しくてたまらない。
「久々のこの場所も悪くないな」
ロイのあとをつけて来たイーサがそう言いながら、自国を眺める。
そして、切なげな表情を見せている弟をちらと目の端で捉えて、ゆるく微笑んだ。
「もう恋しいか」
「………」
「お前も人間らしくなったものだ」
「……私は最初から人間ですよ」
兄の言葉に、言葉を返すと、グッと肩に重みがかかってロイはよろけた。
「エマとリタに聞いたけど、お前ルシア姫以外の妃は娶らないって豪語したんだって?」
「兄上っ……」
片手にサワンを持ったウィルは、それをかじりながら、ロイの肩を組んで笑う。
「女1人でいいなんて…。ロイ、それ気の迷いだよ、いつか飽きるって」
チッと舌を打ったロイは、ウィルの腕を振りほどき腕を組むが、すぐにウィルの手にしているサワンを目にして、ハッと息を飲んだ。
「サワンをお渡しするのを忘れていた…」
しばらく会えないということばかり考えていて、ロイはルシアに用意していたサワンを渡し忘れていたことに気がつく。
美味しいと言って微笑んでくれた、このアノアでしかならない貴重な果実…。