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† 姫と剣 †
第8章 刺客
馬車の中、席に置かれた剣を久々に掴むと、ルシアはホッと息を吐いた。
これを持っている時が一番安心する。
長いようで短かったアノアでの日々。
初めての異国の地。
目に見えるすべてのものに胸が踊った。
ウィルの事件も考えると、ルシアにとって、決して良いことばかりではなかったが、それでもまたこの地にこれたら、という想いを胸に抱く。
無論、この国の王子と結婚するのだから、また訪問する機会はいくらでもあるだろうが。
鮮やかな街並みを抜けると、砂漠が広がる。
照りつける対応を浴びて、馬で駆けるリューイの姿をルシアはぼぅっと眺めた。
少し雑に縛られた亜麻色の髪。
まっすぐな瞳で、いく先を見据えるその横顔───
絵になる。
そんなことを思いながら、しばらくじっと見つめていると、視線に気付いたリューイがルシアに顔を向けた。
そして、そのまま馬を馬車の脇につけて「姫」と声を掛けた。
「どうかしましたか」
「……いえ、なんでもないの」
ルシアの切なげな表情から、リューイは目をそらし、また前を見据える。
「何かあれば…いつでもお申し付けください」
元の場所に戻っていくリューイを以前として見つめながら、ルシアは「ありがとう」と声を掛けた。