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† 姫と剣 †
第10章 覚悟
「…よく帰った」
少し震える父に、ルシアは抱き返す。
「お父様…」
体を離したルシアは、父にじっと見つめられ、微笑んだ。
「……まだ話したいことがあります」
「どうした」
「アノアは、本当に素敵な国でした。いろんな人と触れ合って、文化に触れれば触れるほど…同盟を結ぶべき国だと思いました」
そう言いながら、ルシアは無意識にもう指輪のはめられていない左手の薬指をさすった。
「ローハーグのために何が一番なのかは分かっていたのですが……どうしても気持ちに嘘を吐けずっ…」
「………」
「本当に…申し訳ありません」
ロイと婚約を自分のわがままで断ってしまったことを素直に謝罪する。
これでいい。
ああすることしか出来なかったのだが…。
やはり、国のことを思うと、少し切なくなってしまう。
「……何を言っておる」
「────────」
「最初から、国のために同盟を組んでこいなどと私は言っていない」
「え……?」
父の言葉に、ルシアは顔を上げる。
そして、いつも厳しい顔をしている父の緩やかな笑みに、目を奪われた。
「このローハーグは大国。同盟など無理に組む必要はない」
確かに、父から結婚による同盟を強要されたことも示唆されたこともない。
自身の結婚は国のため。
そう強く思っていたのは…
ルシア自身なのだ。