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ハニードロップ
第3章 信じて
「こんばんは、田所さん」
「おかえりなさいませ、北山様」

 正式にお付き合いを始めて数ヶ月。こうして田所さんに「おかえり」と言われるほどには三木村さんお気に入りのホテルに入り浸っている。

「お食事はどうされますか」
「あ、コンビニで買ってきました」
「またカップラーメンですか。野菜を召し上がらないと、」
「普段は!ちゃんと自炊してるので!ご心配ありがとうございます!」

 三木村さんに、付き合い始めてすぐに「奈子ちゃんはすぐ食事を疎かにするから俺が管理する」と言われた。田所さんにも言ったみたいで、こうして田所さんにまで心配される始末である。ありがたいけれど、本気で栄養士の勉強をしている三木村さんを見るとちょっと申し訳なくなって、家に帰った時はちゃんと自炊することにした。元々料理は嫌いじゃない。両親が共働きだったから自分でよくやってたし。
 高級ホテルのスイートルームに慣れてきてしまった自分がちょっと怖い。エレベーターを降り、フロントで田所さんから貰ったカードキーを刺す。三木村さんはまだ帰ってきていないはずだ。

「ただいまー」

 自然と「ただいま」と言ってしまう。三木村さんが先にいる時は、「おかえり!!」と熱烈に迎えられキスの嵐が降ってくるものだから、今日は少し寂しい。

「疲れたな……」

 今日は1週間ぶりに会える日だ。もうすぐ帰ってくるかな。寝ずに待ってようかな。お風呂も……、そこまで考えて一人で顔を真っ赤にして悶えた。
 と、その時。鞄の中のスマホがメッセージアプリの着信を伝える。

『ごめん、今日帰れなくなった』

 1週間ぶりだったのにな……。少しだけ泣きそうになって、スマホの電源ボタンを押した。この時に長押ししてしまっていたことに、私は全く気付いていなかったのである。
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