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桃衣の天使
第2章 ピンクな面会
 う~ん。気付いてないのかな?床に残されたパンティを染々と眺めて溜め息をついた。

 昼食を済ませると宿題をするからと一人にしてもらいスマホに向かう。与えられた課題に対するレポートを書けばいいのだがこれがなかなか大変だ。内容は大して難しくないのだが左手でのキー操作が慣れてないので辿々しくなって打ち間違いが多く通常の倍近い時間をかけてようやく一つやり遂げる。
 一息入れて首を横に倒すとバキバキと恐ろしい音を立てる。余程凝り固まっていたようだ。お茶でも飲もうかと思ったが水筒は手が届かない所に置いてしまった。こんな些事で明世を呼ぶのも気が引けて身体を捻って手を伸ばしてみるが右腕から走る激痛に悲鳴を上げてしまった。「水を飲まなくて死んだ奴はいないさ。」我ながら無茶苦茶な事を呟いて諦める。こういうの何って言うんだっけ?武士は食わねど高楊枝?引かれ者の小唄?ちょいと調べてみるかとスマホに手を伸ばしたときドアがノックされて一人の老紳士が入ってきた。年齢を感じさせるのはきっちりと整えられた銀髪と額に刻まれた深いシワだけ。180㎝近い長身は棒でも差し込んでいるかのように背筋がピンと伸び、颯爽と歩く姿には力強さと清々しさがある。着ているのは高級そうな背広だ。きっとあるまーにに違いない。唯一知ってる高級紳士服の名前をつけておく。少なくても「二着目○○円」ていうお店の品ではないはずだ。
 直接話した事はおろか会ったことすらないが俺はこの人を知っている。日本で五指に入る家電メーカー「SHINMEI」の会長、蒼馬慎悟だ。テレビでよく観る有名人の登場に反射的に立ち上がろうとして先程の五倍の激痛に声も出せずに悶える。
 「大丈夫かね?」
 けして大きくはないが低く落ち着いた力の有る声に俺は心臓を鷲掴みにされた。恐怖ではない。これが畏怖というものだろうか。
 声も出せずに頷くだけの俺に蒼馬老は話し掛ける。
 「横川当麻君。この度は孫の命を救ってくれて有り難う。また、こんな大怪我を負わせてしまってお詫びのしようもない。本当に申し訳ない。」
 深々と頭を下げられ大慌てで手を振る。
 「会長のお陰で快適な入院生活させて貰ってます。こっちの方がお礼言わなきゃですよ。」
 ひどい言葉使いだ。これから国語頑張ろう。
 今後の学習プランを練っている俺の前に蒼馬老は背後にいた小さい影を前に押し出した。
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