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桃衣の天使
第3章 薔薇色の性春
 入院当初に千歳から聞いた話だと性的介護を受けられるのは入院棟西館東館のそれぞれ最上階に在る計八部屋のVIP個室の入院患者のみでそこに従事する看護婦は一般病棟の看護婦とは段違いの好待遇で給料一つとっても倍近く貰っているそうだ。富美加にはそれを手放す事が辛いようだ。仕方ない。助け船を出してやるか。
 「明世、質問だ。」
 「はい。ご主人様。」
 俺の呼称が「横川さん」から「ご主人様」に戻った。どうやらこの病棟での看護婦の立場を教え直す心積もりのようだ。
 「処女でネンネの富美加がキスやフェラチオが出来るようになれば転属の延期って出来るのか?」
 俺の質問に明世は天を睨んで考え込む。
 「そうですね。フェラチオは最低限出来ないと困りますからそれが出来るなら後は追々教育という事に出来ますけど。」
 「だとさ、フェラが出来るなら転属は待ってくれるそうだがどうする?」
 どうする?と聞かれても富美加は何を言われてるのか理解出来ていないようだ。面倒臭い女だ。俺は腹筋を使って上半身をストレッチャーから起こすと呆然としている富美加を強引に抱き寄せ唇を重ねる。ただただ唇と唇が合わさるだけの子供のキスだが富美加にはショックだったようだ。五秒程して何が起きたのか理解が追い付いたようだ。俺を引き離すと右腕が振り上げられ次の瞬間には左頬が音を立てる。今迄野郎との喧嘩で拳や角材で殴られた事は何度もあるが女にビンタされたのは初めての経験だ。音の割には大して痛くない。
 「何をするの!」
 怒気を吐く富美加の左頬が弾ける。明世の平手打ちが富美加を捉えたのだ。先程の太股への打撃の比ではない痛みに泣くことも忘れてへたりこむ。
 「ご主人様。申し訳ございません。」
 深々と頭を垂れる明世の肩をポンポンと叩いて合図を送る。
 「構わないよ。それよりそいつを立たせろ。」
 明世は富美加の髪を鷲掴みにして引きずり起こす。
 「どこの世界に患者さんに暴力を振るう看護師が居ますか!」
 優しい先輩の顔しか知らなかった富美加には激昂する明世が別人に見えたろう。しかも同じ女性としてファーストキスを強奪された自分を慰めるどころか叱責するなんて。理不尽さに頭がグルグルしているだろう。
 「フェラチオが出来ない理由はファーストキスがまだだからだったよな?キスはしたんだ、これでフェラ出来るだろ?」

 
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