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不倫研究サークル
第5章 初デートはホロ苦く
テーマ水槽と言われる小さな水槽の前で、小梢は立ち止まり、水槽の中の魚を見つめていた。

時折見せている寂しげな目で、小梢は水槽の中の魚を見つめていた……。

エゾイソアイナメ、通称『どんこ』と呼ばれる魚だ。ちょっと愛嬌のある顔をしている。

「あれ~、『どんこ』だ。久しぶりに見たよ、田舎の水族館にもいたんだ」

中学一年の時に行った田舎の水族館、そこで一番印象に残っているのは『どんこ』だった。


「醜い顔……」

小梢がちいさく呟く。


その時、僕は田舎の水族館で起きた出来事を思い出した。



……あれは……。



デブだブスだと虐められていた女の子……。名前は……、そうだ、たしか『土門』と言ったっけ。土門……何々子、下の名前は知らなかったけど、遠足で訪れた水族館で『どんこ』『どんこ』とからかわれていた。

土門何々子を略して『どんこ』、醜い顔の魚に例えて水槽の前で苛めっ子の男子にからかわれて泣きそうだった、あの子。

僕は、見かねて『愛嬌のある顔だよ。食べると美味しいんだ』とか、フォローになってないけど庇ったんだ……。


「醜くなんかないよ。愛嬌のある顔だ」

あの日と同じことを僕は言った。


小梢は、大きな目を更に大きくして僕を見つめる。

「圭君らしい言い方だね。醜くても優しい……でも、『どんこ』より熱帯魚を、人は好むよ」

まただ……。小梢が時折見せる寂しげな目に、僕は不安になる。いつか、小梢が僕の元からいなくなるのではないかと。


「観賞用と食用じゃ、役割が違うよ。ちゃんと魚なりに役割があるんだよ」

と、またしても僕は意味不明のフォローをしてしまう。


「そうだね 笑」

小梢は笑ったが、弱々しい笑顔だった。




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