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体育倉庫のハイエナ
第6章 6
しかし――当たり前なのかも知れないけど――奈津子はその、たった四文字の単語の発声に、幾度となく躓いた。

「オ、オ…オ、オマ、オマ…×……オマ、×…オ…」

 三文字目までは辛うじて口に出来るものの、最後の一文字がどうしても発声できない。

 そこでまた、最初の一文字目からやり直す――これを何度も、繰り返していた。

そんな、失敗を何度も重ねる奈津子を、マサムネは叱咤して、レンヤは激励する。

「全く…どんだけ手間取らせるつもりだよ?…“オ”、“マ”、“×”、“コ”!…」

「奈津子ちゃん、頑張ってッ!…“オマ×コ”だよッ!…“オマ×コ”って言えたら、ご褒美が待ってるよッ!」

 でも、散々失敗を繰り返した挙げ句、やがては奈津子は、成功に至った。
 
その際、奈津子は三文字目までは、勢いにのせて文字を並べて――

「オマ×…」

 そこでほんの一瞬だけ、躊躇の間を挟んでから、最後の一文字を口にした――

「コッ!」

 そうして完成された猥褻な単語は、何度も失敗を重ねたからこそ貴重で、また途中に妙な間を挟んだからこそ余計に猥褻に聞こえて、だからこそ二人を、そして僕を、大いに喜ばせた。

「ハハハハッ!…とうとう言ったぞッ!このスケベ女、”オマ×コ”って言ったぞッ!」と、マサムネ。

「偉いよッ!…奈津子ちゃん、よく頑張ったねッ!偉い偉いッ!フフフフ…」と、レンヤ。

 もちろん僕は声に出しては言わなかったけど、心の中ではこう思っていた。

(あーあ、とうとう言っちゃったね…”オマ×コ”なんて恥ずかしい言葉、言っちゃったね…でも、可愛かったよ、奈津子…)

 そして奈津子は、その単語を口にしてから、また静かに泣き始めたみたいだ。

 けど、そんな奈津子にレンヤは、奈津子にとっては残酷な事実を、指摘してみせた。


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