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第44章 【彼の根底にあるもの。2】

「おいダメ人間製造機。おまえ麗に何したんだよ」
「ししししてないです!…たぶん…」

出勤する流星さまを見送るため、連れ立って廊下に出る。ダイニングのドアを閉め二人きりになった直後、手を引かれ胸の中に抱きしめられた。

「俺は麗とは四半世紀の付き合いだけど」
「みゆみゆー、早くー、ご飯ー」
「…あんな麗初めてだよ。気持ち悪い通り越して、怖い」

閉じられたドアの向こう側から響く間延びした声。
流星さまは溜息をついた。

「れ、麗さま?!すぐ準備しますから、ちょっと待ってくださいねっ?…流…」

ドアの向こうへ返事をしたあと、流星さまを見上げる。彼の表情は暗い。
それに、『怖い』なんて言葉、彼が口走るのは珍しい。やり場のない思いを解消するかのように、わたしを抱く腕に力が込められていった。

流星さまは意外と『変化』に弱い。

長い付き合いである麗さまの、あの変貌っぷり。
さっきの引き攣った表情といい、今の暗い顔といい。
わたし以上にショックだったんだろうな…

「これもさ。見た?」

親指で指し示された方向は、玄関へ続く廊下。そこには上着、財布、煙草などが点々と残されていた。もちろん全て麗さまの私物。…よく見るとスマホやUSB、免許証(!)まで捨て置かれている。

「こ、これは…」

変な言い方かもだけど『自分の痕跡』をこんなに残していくなんて、普段の麗さまならまずありえない。
抱かれた腕を解かれ、流星さまの後に続いて歩きながらひとつずつ回収していくわたしの胸にも、不穏な空気は広がっていった。これ以上流星さまを不安にさせたくないから、言わないけど…


「うーわっ、ここもかよ」

辿り着いた玄関。たたきには…どうやって脱いだのかしら。麗さまの靴が左右バラバラの方向を向いて脱ぎ捨てられていた。
自分の靴を履き立ち上がった流星さまは、邪魔くせーなと呟きながら足でそれを脇に寄せた。

「こーゆー時に限って、外せねー会議やら人間やらに会わなきゃならねー予定があるってなぁ…未結悪りぃ、今日だけはどーしても抜けらんねーわ」

それでも流星さまはわたしを心配してくれていた。
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