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想い想われ歪なカタチ
第2章 2
男は黄色いヤニのこびり付いた歯をむき出して笑った。
ナイフの切っ先を つっぅと私の肌に滑らせて、ブラの真中のつなぎ目に引っ掛ける。
胸の谷間に触れる、冷たい刃物の感触に 私はこれが現実だと思い知らされた。


「ちょっと!! この馬鹿ゴリラ!!! やめなさいよ・やめ――」


プツ  とあっけない音を出して、ブラはナイフの刃に二つに切られる。
だらしなくダラリと垂れ下がって、私の胸の膨らみの突起上に、かろうじて覆い被さって残った。


「さぁ~て、よぉ~く見せてくれよォ?」


ゴリラ男はそのゴツゴツして節くれだった手で、私のブラの両端を掴むとゆっくり開こうとする。


「やっ!! やめて!! やめてったら!!!」


暴れても身体がギリギリと羽交い絞められて、ビクリとも動けない。
とにかく叫ぶ。何か叫んでないと、きっともう、
声は出なくなって、ただ恐ろしさが残ってしまうから。


「助けて!! 誰か!! 誰かーっ!! 流牙ーーッッ!!!!」


その名前を呼んだのは、ほとんど無意識だった。
だから返事が返ってくるなんて、思いもしてはいなかった。


「お呼びですかお嬢様」


・・・・・

・・・・いつもの冷静な声が聞こえた。


「え?」


私は勿論、私を背後から羽交い絞めた男も、
みっともない前かがみで私のブラを持ち上げたままのゴリラ男も、
部屋に居た男達皆、きょとんとして声の方向へ振り向いた。

部屋の開け放された扉の中央には、表情という色を千倍に薄めた顔色の流牙が、
一流の使用人として訓練された申し分ない立ち振る舞いで佇んでいた。
白々しい陽の光の溢れる日中に、高級の布地だけが放つ暗い色合いのスーツはいっそ毒々しい。
薄く度の入った眼鏡越しに 涼しげな目元は何の感慨もなく、部屋にいる男たちと私を見下していた。


「・・・りゅ・流牙ッッ!!! アンタ今まで何処行ってたのよッ!!
 っていうか、何ボサっとしてるのよ!!! はやく助けなさい!!!」


全ての沈黙を破って第一声を張り上げたのは私だった。

ゴリラ男はやっと、その薄汚い手を私から(正確には私のブラから)放して
流牙に向かいあった。
その猿人類に似た強面に、凶悪な表情を浮かべる。
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