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BeLoved.【蜜月記】
第16章 【縮】BeLoved.

「俺今、すげー怖い」
──怖い。この人からそんな言葉が出るなんて。
驚いた…けど、無理もない筈だ。
彼は今、正真正銘の『子供』。
何故こうなったのかも、いつ戻れるのかも判らない。
まるで出口のない迷路に閉じ込められた心境だろう。
堪らず俯いてしまった。そのつらさを和らげてあげられる魔法の言葉は、見つからなかったから。
「今"何か"あったらって思うと、すげー怖いよ」
「ですよね…」
「いざって時、おまえのこと守れねーな、って」
「えっ?」
なんて?驚き見返した先には、見慣れた鋭い三白眼。
嘘偽りない…己の本心を伝える時に見せる瞳があった。
彼は続ける。
会社は最悪自分が退任しても何とかなる。
戸籍等々も、手に入れられる伝手はある(!)。
変な話、第2の人生(?)を始める事は叶う。
唯一、わたしに関する事だけは…叶わない。
それが怖い。と。
「り…」
ああ、ほんとうに、このひとは。こんな時まで。
自分のことより、わたしのことを想ってくれて。
「あと何がムカつくって、そーゆー時に一番頼れんのがヘタ麗ってトコなんだよな」
「す、既に助けていただいてますしね、色々と…」
心底不本意なのが伝わってくる表情と物言い。
苦笑で返しつつも、どんな時でも彼は彼であること、そして…わたしへの愛情を再認識させてもらったことで、わたしが感じていた緊張というか不安は、溶けていた。
だから、今度はわたしの番だ。
「、なに?未結」
「…わたしは!」
頬に柔らかくて甘い香りの髪があたる。
腕の中に華奢で繊細で温かい命がある。
魔法の言葉も模範解答もいらない。
少し前、流星がわたしにくれた言葉。
今度はわたしが、彼にそれを伝えた。
「あなたが生きてくれていればいいんです!」
「…うん」
返されたのは、小さな頷き。
「いざとなったらわたしが養いますからね!」
「あ、それはいい」
「え」
「女に喰わして貰うとか無理。あと"抱かれる"のも嫌」
そうのたまった彼はわたしの腕をすり抜け、「寝るわ」と我が物顔で布団に潜り込んだのだった。
「…もう!」
…出過ぎたかな。でも、少しは気が晴れたかな。
消灯し隣に座り直し、小さな背中を見つめながら独り反省会。いつしか寝堕ちてしまった耳に、『答え』が聞こえた…気がした。
「ありがとな、未結」

