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Secret space
第8章 8
 遅い夕食を済ませた後、男とおそらく入れ違いで浴室に入った。
少し熱めの、豊かなお湯を湛えた広い浴槽の中、
瞼が独りでに落ちてくるので、紗織はそのまま溺れてしまいそうだった。

長時間の泣くという行為は、必要と想像以上に紗織の体力を奪った。
その上、男との行為と昨日の少ない睡眠時間が折り重なって、
部屋に向かう廊下を歩く身体は、他人のもののように重くだるかった。

この状態で、またすることになるのは、絶対、無理だ。
なのにそれをどんなに訴えても、あの男にはきっと無駄なのだろう。

 ところが

部屋に戸惑いがちに入った紗織をしばらく見つめて、
男が取った行動は、ただ抱きしめる それだけだった。

その手が、男のものとは思えない柔らかさをみせて、
幾度も 湯上りで紅潮した顔や、水分の乾ききれてない髪とともに頭を撫でた。
床の中での抱擁に、出所の解からない幸福感が、紗織の胸いっぱいに広がる。

 どうしてだろう。
時々、男は酷く優しい。
底なしにのめり込みそうになる自分が怖い。
それでもこの時を 少しでも長く過ごしていたくて、
紗織は襲ってくる眠気を懸命に追い払う。

 抵抗空しくあっという間に、幸せと睡魔に埋もれて見た夢は
余りにも甘美で、記憶の網に捕らえることは不可能だった。



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