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第8章 ８

　真っ直ぐ帰った屋敷の
未だに慣れない奥行きの畳の部屋で、
時計の針が深夜を振り越しても、紗織はなかなか寝付けなかった。
　男が　まだ帰ってこない。

　夜更けに降り出した雨音が、屋根の瓦や庭の木々に、
幾重にも反射しては散らばって　入り込み、
広い部屋の面積を　一層広げていく気がする。

　改めて見てみると、この屋敷は全体に
どっしりと古めかしく憂鬱な空気に覆われていて、
今にも白い着物を着た女の幽霊が、所々ほつれた長い髪を引きずって
襖を僅かに開けてはゆらゆらと　
布団をしっかり被った紗織の隣に漂ってきてはこちらを見てそうだ。

そんなことを考えると、さらに目が冴えてくる。
幾度も夜を過ごしたこの部屋で、男が居るときにはこんなことは
頭にちらりとも　横切ることは無かったのに。

　そう　何よりも男がいない。
自分を包む暖かい腕が素肌がどこにもない。
それが一番の不眠の原因。

こんな事だけで、眠れなくなるなんて。
なんて馬鹿馬鹿しい。