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Secret space
第8章 8
紗織は想像の幽霊を蹴散らすように布団を剥ぐと、
起き上がって御手洗いに向かった。

 この屋敷は古いが水回りだけは、
和の雰囲気を崩さない上にきちんと新鋭の設備で整えられている。

用を済ませた後、蛇口をひねって水を出す。
自分を映す目の前の大きな鏡は、何か違うものまで映し込みそうで怖い。
手を洗って、水を止める。
さっきまでわんわんと響いていた雨音が、ぱたりと止んでいる。

  ぴん ぱらら・・ ぽろん
 しんとした屋敷に、異色の音が幽かに耳に届く。
萎縮した心を逆なでするその音に、思わず耳を澄ます。
高く連続的で金属を弾くような清んだ響き。
これはオルゴールの音?
静まり返った真夜中で、そして雨音がもし消えてなければ
聴覚に幾分優れた紗織にも、この音を感じ取るのは不可能だっただろう。
そのぐらいに消え入りそうな音だった。

日本家屋の邸宅に、余りにも不釣合いなその音のする方向へ、
紗織は手のひらを握り締めて、恐る恐る向かって行った。
紗織の居た部屋とは逆の方向。忍び寄るようにそろそろ歩く。
思えばこちら側には足を踏み入れた事はない。


(この部屋から聞こえる・・・)


 遂に音源と思われる部屋の前に辿り着いた。
部屋の明かりは消えている。
細かい格子の戸がぴたりと閉められていて、中の様子は窺い知れない。

だが幾重にもメロディーが重なる美しいオルゴールの音色は一定のリズムで
確かにこの部屋の中から放たれている。
 人の気配のようなものは何も感じないが、中がまるで分からない。

この部屋の中身を知りたい。覗いてみたい。
紗織は少し 怯えながらも思い切って、その取っ手に手を掛けた。
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