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第8章 8
「えー・・と そう! あれ、うちにあんな大量の注文持ってきたの
 あなたなんでしょう?」


ああ・・ よりにもよって答えがわかりきった、
今更どうでもいいような事を聞いてしまった。


「そうだ」


「・・・・それも条件か何かの内?」


「まぁな。 だが実際、お前の親父の技術はたいしたものだ。
 精密と正確さを極端に必要とする特注の依頼も見事にこなす。
 大量生産型の工場では ああはいかない。

 その技術を欲しがるところを知った上で、正しく売り込みさえすれば、
 受注など腐るほどあるさ」


「そう・・・」


少しうつむいて、何か考え込む紗織に 男が静かな声で言った。


「・・・お前の家の話題はやめたほうがいいんじゃないか?」


自分を見つめる優しい光を宿した黒い瞳に、紗織はどきりとした。

(なんだ こんな眼もできるんじゃないの)

思わず、その瞳に見とれる。
自分の腹部に回された手が、紗織の素肌へと分け入る気配を見せて
再び動き出しそうになったので、慌てて話を続けた。


「あ、うん でも・・まあ もう大丈夫って聞いて 安心した・・・」


 完全な仕事人間だった父は、放っておけば一晩中でも
一人黙々と、自分の町工場に篭っているような人だった。
それだけに、仕事を奪われてやる気を無くし、
家で酒をあおっている父の姿を見るのは辛かった。
 今はもう、ただ二人が 自分を犠牲にした分、
ちゃんと幸せになってくれればと そう思った。

両親の姿を思い出すと、また少しだけ つんと目元が熱くなる。
浮かんだ二人の顔を 実際に今見える映像を意識することで掻き消す。
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