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Secret space
第9章 9
「ねぇ・・・何で、私のこと、名前で呼んでくれないの?」

ことが終わって抱かれた腕の中で思わず紗織は素直に疑問を口にした。
嘗て頼んだその日以外、男は決して紗織を名で呼ぶ事はなかった。
男の名を聞き出すのは、もうとっくに諦めていた。
それでも、その人の声で 口で 名前を呼ばれたい、呼んでみたい。
そういう気持ちなど男には湧かないものなのだろうか。
そこには特別な意味が宿るのに。

「名前・・・」

男が僅かに首を傾げる。

「やだ、まさか忘れた訳じゃないでしょう?
 だいたい、最初のとき呼んでいたじゃない。その声で。それで私は――」

どうしようもなくなって、初めて昇り詰めてしまったのだから  と
危うく言ってしまそうになって、慌てて口を噤んだ。

「名前を 呼んで欲しいのか?」

男は赤くなって押し黙った紗織の、まだ潤いを残した秘裂に指を滑り込ませて
驚いて身を跳ねらせるのを面白そうに眺めて言った。

「その・やっ・・・待って また・・・あっ」

そこが充分な体液でぬめっているのを知ると、
紗織の小さな抵抗虚しく男は強引に分け入った。

「・・さおり・・・・・・・紗織・・・」

紗織の奥へ激しく打ち付けながら
男は耳元へ、その名を確かめるように発する。

胸が そこに秘められた魂が 

瞬時に 烈火の熱を体内に放射して 震えた。

二度目だというのに、紗織はあっという間に快感の頂へ追い遣られる。
それ以来、男は紗織の名をたびたび口にしてくれるようになった。
特に行為の最中に その低く響く甘い声で囁かれると、
それだけで、紗織は軽く達しそうになる。
男に呼ばれることで初めて、紗織は自分を確認出来る。

そう、きっと、おそらくは、少なくとも、
この男が自分に多大な関心を寄せいているということは確かなようである。
そう思えるだけでも救いだった。
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