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Secret space
第9章 9
全て塗り変えられてしまったこの生活に、徐々に慣れるに従って、
この屋敷のことや住む人々のことも少しは把握できるようになってきた。

男の朝はいつも早い。
朝にめっぽう弱い紗織が、漸く実和に揺すり起こされる頃には
男の姿はもう どこにもない。
そのくせ、夜の帰りが酷く遅いことがしばしばある。
休日らしい休日をとっているのも見たことがない。
ただ、家で一日中、男の相手をさせられると考えたら、
それは紗織にとって幸いなことかも知れないが。


「何の仕事をしているの?」 ある日紗織は尋ねた。管理職だと男は答えた。
「・・・・まさか 社長 とか」  恐る恐る聞く紗織に、
男は微笑して まだそんなに歳ではないと答えた。
それは果たして年齢の問題なのだろうか。
では一体幾つだというのだろうか。

「何歳なの?」 やはり戸惑いながら紗織が聞く。
「何歳に見える?」 男に逆に質問される。

幼いころから、父が経営する工場に訪れる人々をよく目にしたし、
その年齢を当ててみるのは紗織は得意ではあったが、
この男については皆目見当も付かない。
顔や風貌をみると二十に近いぐらいとしか思えないが、
大学を出ているとしたら二十三以上。
しかも、社会人として長年を積み重ねてきたような
奇妙な貫禄を滲ませているのだから、余計に分からない。

「に、じゅう・・ご?」 紗織は首を傾げながら言う。
「俺はそこから成長してないのか」と男は苦笑した。
では少なくとも二十五以上ということか。
そうすると、十以上も年が離れることになってしまうなぁ―などと
紗織がつらつらと考え込んでいると、男の唇が落ちてきたので、
結局うやむやになってしまった。
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