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Secret space
第9章 9
この屋敷の構成はというと、
美しい自然に囲まれた広大な敷地に
紗織がいつも居る恐ろしく入り組んだ作りの母屋、
それと使用人たちが寝起きするという立派な離れが二つ。
高級旅館の大浴場さながらの浴室が、また別に設けてある。
敷地の多くを占める庭園の景観は芸術的な佇まいで、
冷たい北風が吹き始めるこの季節、もう少しすれば色とりどりの木々が
花も顔負けの鮮やかさを誇って、その紅葉を惜しげもなく披露することだろう。
日のあるうちはそこで、初老にさしかかった小柄の風采の男が、
丹念に手入れを施している姿をよく見かける。
彼はこの屋敷の庭、専属の庭師だということだ。
母屋から風呂場へ向かう渡り廊下からは、
翠緑色の透明の水面輝く池が眺められる。
そこには、何匹もの錦鯉が黄金色や白赤のまだら模様の鱗を身にまとって
水中をすいすいと遊泳している。
この屋敷の主が庭に出ている姿など見たことがないから、
鯉達に餌をやるのも先ほどの庭師の仕事なのだろう。
生き物好きな紗織は、彼に頼んで鯉の餌付けをさせてもらうことが多々あった。
人の良さそうなこの老人は、紗織が話し掛けると目を丸くして
紗織の顔を穴が空くほど見つめ返す。
ときにその目を潤ませはじめたりもする。
そんな彼の態度に最初こそは閉口したが、今はもう馴れた。
この屋敷で暮らし始めて、既に一ヶ月が過ぎようとしていた。
広い邸宅のその構造を少しずつ把握していく中で
あの部屋の存在は やはり不気味だった。
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美しい自然に囲まれた広大な敷地に
紗織がいつも居る恐ろしく入り組んだ作りの母屋、
それと使用人たちが寝起きするという立派な離れが二つ。
高級旅館の大浴場さながらの浴室が、また別に設けてある。
敷地の多くを占める庭園の景観は芸術的な佇まいで、
冷たい北風が吹き始めるこの季節、もう少しすれば色とりどりの木々が
花も顔負けの鮮やかさを誇って、その紅葉を惜しげもなく披露することだろう。
日のあるうちはそこで、初老にさしかかった小柄の風采の男が、
丹念に手入れを施している姿をよく見かける。
彼はこの屋敷の庭、専属の庭師だということだ。
母屋から風呂場へ向かう渡り廊下からは、
翠緑色の透明の水面輝く池が眺められる。
そこには、何匹もの錦鯉が黄金色や白赤のまだら模様の鱗を身にまとって
水中をすいすいと遊泳している。
この屋敷の主が庭に出ている姿など見たことがないから、
鯉達に餌をやるのも先ほどの庭師の仕事なのだろう。
生き物好きな紗織は、彼に頼んで鯉の餌付けをさせてもらうことが多々あった。
人の良さそうなこの老人は、紗織が話し掛けると目を丸くして
紗織の顔を穴が空くほど見つめ返す。
ときにその目を潤ませはじめたりもする。
そんな彼の態度に最初こそは閉口したが、今はもう馴れた。
この屋敷で暮らし始めて、既に一ヶ月が過ぎようとしていた。
広い邸宅のその構造を少しずつ把握していく中で
あの部屋の存在は やはり不気味だった。
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