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Secret space
第9章 9
「あんな風に言われると、余計に知りたくなるってものよね・・」


ある晴れた日曜日の昼下がり、
紗織は再び、部屋の前に立っていた。
当然ながら、男は居ない。邪魔をする者は誰もいない。

そっと その濃い茶色の格子の障子戸に、耳を寄せてみた。
いつか聞いた幽玄なオルゴールの音色は今はすんとも聞こえない。
有機的な音も気配も全くしない。

ではあの音は何だったのだろう?
紗織はその戸にそっと手を掛けると床に平行に力を込めた。
予想以上に戸は重い。さらにその手に力を込める。


「・・・・ッ、 ふぅ・・。だめだ、開かない」


おそらく鍵がかけられているのだろう。
そういえば、そんな部屋がこの屋敷にはいくつか在る。
戸の隙間から覗こうと試みたが、その隙間はぴったりと閉じられていて、
剃刀の刃でさえ通しそうにない。


「紗織さん?」


戸を前に悪戦苦闘する紗織に、実和が声を掛けた。


「こんな所で何をなさっているのです?」


「いえ、別に、 ちょっと、気になることがあって・・・」


実和はいつもの穏やかな笑顔を崩さないが、どこか不安そうな面持ちだ。
あの男とはまた違った意味で表情の少ないこの女性に
出会ったばかりの頃ならとても、この変化には気づかなかっただろう。
紗織は思い切って口にしてみる。


「この部屋って 何故鍵が閉まっているの?
 まさか、誰か居たりしませんよね」


「いいえ、誰も。
 今はこの部屋は全く使われてはおりません・・・。
 あの、この部屋にはあまりお近づきにならないでださい」


(またそれか・・・・)
紗織は心の中で小さく舌打ちした。


「どうしてですか?」


「どうしてと・・言われましても・・・
 私共もこの部屋には、たまに掃除の時に立ち入る以外、
 中に入るのは許されてはおりません故。

 それよりも紗織さん、三時には少し早いですけれどお茶にいたしません?
 それで探していたのです。
 とびきり美味しい京の和菓子がありますのよ?」


そう誘われると、怪訝だった顔の表情を思わずほころばせ、
甘いもの好きな紗織は二つ返事でついて行く。

男にとっても、実和にとっても、
さっぱりとして率直な性格を持ったこの娘を
思い通りに御すのはいとも簡単なことではあった。
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