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Secret space
第2章 2
紗織は男のキスを受け入れながら、
頭のなかで、念仏のように必死にそう繰り返していた。

やがて男は長い口付けをやめて、自分の身体を紗織から離した。


(今だわ!)


ぼうっとした表情に努めていた紗織の目が
はっきりとした意識を宿して見開いた。

すばやく枕もとの照明を手にとり男に投げつけて
服を手繰りよせながら、出入り口の襖に飛びついた。


「何で?!開かないなんて!!」


襖の取っ手を力一杯引っ張ったが、
先ほど軽やかに動いてた襖が、今はびくとも動かなかった。


「ああ、びっくりした」


背後の男が暢気な声をあげた。


「なかなか油断ならないな」


紗織は振り返って男を睨む。
この部屋に入ってから何度、この男を睨んだだろう。
どんなに睨んでも、その度に、ただ音もなく跳ね返されるだけだった。


「そこの襖、特注でね、カギをかけられる仕組みになっている。
 どうやってロックしたかは秘密だが」


男が微笑んで紗織に近寄る。
紗織は襖づたいに、じりじりと横へ移動する。

部屋の隅に来た。襖の紙の感触と冷たい壁の感触を同時に感じる。
後ろ手で襖をスライドさせようと力を入れたが、やはりビクともしない。
この様子ではもう一方の襖もカギを掛けられているだろう。
逃げ場はなかった。
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