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第10章 10
「はーん・・・・分かったぞ?
 実和、お前はそうやって俺を怒らして
 自分に俺の気を逸らしてこいつを庇うつもりなんだろ?
 麗しいことだねぇ。 くっく。
 ってことは、それほど雅斗はこいつがお気に入りなのかぁ~・・・」


「あっ・・・どうか、このようなこと・お止め んッ ぐっ・・・・・・」


精司が箪笥を物色して取り出した手拭を実和の口に噛ませると
豊かな黒髪を結い上げた後頭部できつく結んだ。


「よし、これで、喋りたくとも喋れないだろう?
 黙って良い子にしてろよ、実和」


そう言うと、精司は右手で実和の顎を掴んで強引に顔を引き上げる。
綿の手拭を噛み締めて 戦慄く実和の唇に、精司は軽く口付けた。



「さぁ。邪魔者は黙らせたところで、
 俺と楽しもうじゃないの、  サオリサン?」


びくともしない金具の枠に
繋がれた縄の食い込む手首をぎりぎりと引っ張って、
背を反り、精司に捕まれそうになる足を闇雲にばたつかせる。


「・・嫌!!やっ!!触らないで!!
 この・・ッ・・・・あぐ・・・・・・・・・・・っ・・・」


精一杯の抵抗を試みる紗織の腹部に、精司は握った拳をめり込ませた。
その容赦ない打撃に、紗織の呼吸はしばらく止まった。

精司の暴虐な振る舞いは、
親からも滅多に手をあげられることなく育った紗織から
逆らう気力を奪い取るのに十分な効果を発揮させる。


「・・・・ふッ・・・・く・・・・・」


じわじわと巡る痛みにひとしきり耐え、
引き攣った咽喉を懸命に緩ませ、停止した呼吸を何とか取り戻す。
下肢を這う手の感触がしたが、そんなものに構ってはいられなかった。
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