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第10章 １０

紗織は、まだ、十分に物事を理解できずに、
混乱した色を浮かべて所在無さげな瞳で精司を見つめ返す。


「お前、ほんとに何も知らねーんだな。

　あの男が、女、金で買うほど不自由してると思うか？
　お前はただの身代わりなんだよ。身代わり！
　あの変態野郎の　姉貴の身代わりにされてんの」


「身代わ・・り・・・・？」


紗織はただ呆然と、その単語を口の中で繰り返す。


（・・・・・みがわり　　　身代わり　　　私はただ代わりに

　さおり・・・早織　　

　私・じゃない　　　わたし　じゃ　なかった

　わたしあたしは・・・・）


ウロウロと　目の前をさまよった暗闇が、
紗織の白んだ脳裏に染みて黒く広がり始める。
すぅぅと冷えた肌を、まさぐりながら精司が嘲笑を含んで語りかけた。


「あーぁあ、　ひょっとしてショック受けちゃったぁ？サオリチャン？
　お前確かに綺麗な顔してるけどよぉ。
　絶世の美女じゃああるまいし、世の中お前程度の女、結構居るんだよねぇ。
　あいつが本気でお前に惚れてるとでも思ってたぁ？
　く、カワイソーに。

　お前の親父も不憫だよなぁ・・・
　他人に似た娘を持ってたってだけで、
　倒産寸前までに追い込まれてさぁ。

　あぁ？　まさか、これも知らなかったかなぁ？」


精司が、禍々しい皮肉さを秘めて、嬉しそうに笑った。