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Secret space
第10章 10
部屋には、床に座り込んで怯えたように視線を泳がせる紗織と
無言のまま立ち尽くした男が残された。


「こっ・来ないでよ!!!」


男が近寄ってくるのに逆らって、紗織はずるずると引き下がった。
すぐに壁際まで追いやられ、男は紗織の前に来て片膝を付いた。
思わず、びくりとして膝の間に顔を埋めて縮こまり、ぎゅっと瞼を閉じたが
男に何もされなかったので、紗織はまた恐る恐る目を開け、男を見上げた。

男は、ただそのままで じっと紗織を見ていた。


「・・・・・お姉さんが・・・・好き だったの・・・?」


その黒い瞳のずっと奥に 映るものを感じ取って、紗織は小さく声を絞った。
何の躊躇もなく、男は瞬時に口を開いた。


「ああ。 好きだった

 愛していた・・・誰よりも。

 だが死んだ。
 もう居ない」


答えは 分かっている。 絶対に聞きたくもない。
そう思っても、紗織は尋ねずにはいられなかった。


「私を 抱いたのは・・・
 あなたの死んだお姉さんに似ているから?

 私を買ったのはそのため?!!

 あなた、自分のお姉さんに あんなことをしたかったって言うの?!!」


(お願い・・・ 違うと言ってよ 嘘でも言いから 違うと言って!!)


紗織は必死になって叫んだ。刹那の沈黙さえも怖かった。



「・・・そうだ」


男は胸の奥に抑鬱したものを、さらに踏み潰して少しだけ声に混ぜた。

分かりきった答えでも、その声を聞いたとき、
紗織の頭は真っ白に染め抜かれて血か引いた。

少しの間を置いて、男は紗織を射抜くように見据えたまま話し出した。
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