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第11章 11
あぐあぐと開けた口を無意味に動かす順造を横目に、
男の毒舌は尚も続く。


「なかなか上を退こうとしない貴方のワンマンぶり、
 学歴・家柄主義の古い思考、 それに引きずられて
 貴方の会社の経営が、かなり傾いていることを私が知らないとでも?」


刺のある言葉とは裏腹に、柔和な笑みを口元にひらめかせて男は言った。


「あぁ、それでも、よく持った方ではありますよね。
 しかし明らかに落ち目が見え始めた者に
 市場の反応は冷たいでしょうね」


順造はやはり口を半開きに開けたまま、
その言葉通り声を失っている。


「それでは失礼致します」


これ以上この場に留まる必要は無いと判断して、
男は流暢な所作で軽く会釈をして部屋を出ようとした。


「待てッ・・・! 人が下手に出ておれば調子に乗りおってこの若造が!!
 これほどコケにされてこのまま帰すものかっ!!」


ねとついた唾を口から飛ばし、二重の顎を更にたるませて、
脂ぎる顔を歪め、怒鳴る順造の怒声を聞き流しながら、
男は僅かにその秀麗な眉の根を寄せた。


「・・・心臓がお悪いとお聞きしていますが。
 あまり興奮なさると身体に障りますよ」


「うるさイッッ!!」


順造は顔を赤黒くして、ますます声を荒げて叫んだ。


禿げ上がった頭頂部から ほのかに湯気を立ち上らせ
白目がちの目をさらに白く濁らせ、赤い顔は更に赤く膨らませ、
人体というものがその意識と機能を失って
倒れて行く様を見るのは 一見の価値があったが、
その見物料は少々高く付いたようだ。

 颯爽と救急車を呼んだのは良いものの、何故か病院まで付き添う羽目になり、
泣き乱れる一時は婚約者であった娘に
礼儀上、優しく聞こえるトーンの声を用いて慰めると、
ここぞとばかりに胸に飛びつかれて
わんわんと泣き付かれたのには、流石の男も閉口した。
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