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Secret space
第11章 11
 その日ついに、紗織が目覚めることはなかった。
名のある大学病院に担ぎ込まれたその身体は入念な検査を受けた。

人体を輪切りに写した不気味な白黒写真を背景に据えて、
白衣に身を包んだ医師が、重々しく口を開く。


「脳に腫瘍や出血のようなものは何も見当たりませんし、
 その他身体につきましても特に異常があるわけでもなく、
 脳波、心拍数とも正常値を示しておりまして――」


「結論を先にお聞かせ頂きたい」


更にだらだらと長く引き伸ばされそうな医師の言葉を、男が遮断して言った。
医師は一瞬、口の両端を吊り下げた。


「あらゆる検査結果からみましても、
 湯河さんの状態は、ただ眠っているとしか申し上げようがありません」


「眠っている?」


「ええ、ある程度強い刺激には、時に微かに反応を示しになられますし、
 昏睡状態というよりもそう申し上げた方が近いかと」


「ならば何故、目を覚まさないのですか」


「さぁ・・・。これは非常に稀なケースでして、
 私共と致しましても、はっきりとしたことは申し上げられないのですが、
 肉体的ではなく、精神的な要因が大きく起因しているかと」


「目を覚まさせる方法はありますか」


鋭く放つ男の視線から目を外して、医師はふっと息を吐いた。


「覚醒を促す手法をいろいろと試みは致しましたが、
 どれも効果は得られず・・・
 先ほど申し上げたように、精神的要因が絡んでくるとなると
 現代の医療ではこれと言った治療法は今のところ無いに等しいと言いますか」


「先生! そんな・・・・・・
 それでは紗織さんはあのまま・・ずっと眠ったままだと仰るのですか?!」


男ではなく、その後ろに控えていた実和が一歩前に立ち上がって声をあげた。


「いえ、ずっと という訳でもないでしょう。
 今すぐにでも欠伸をして起き出してくるかも知れませんよ?」


医師は自分の顔に少々ぎこちない笑顔を浮かべたが、
相手方からの期待の反応を1ナノグラムも得られず、慌てて表情を真顔に戻した。
悲痛に美しい眉を顰めたこの女性はともかく、
無表情のまま自分を見つめるこの男は、どうもいけ好かないと医師は思った。
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