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Secret space
第11章 11
 声が 掠れて震えた。ただ普通に発したはずであったのに。
見つめていた紗織の顔に、ぱたぱたと水滴が落ちた。

男は驚いて、上の階から水が漏れたのかと 天井を見上げた。
その拍子に、自分の眼から熱い何かが剥がれ落ちるのを感じる。
見上げた白い天井は染みの一つも見当たらず、
そこから垂れ下がったカーテンが、ゆらゆらと揺れ動いた。

男は その水滴は、自分が目から滴らせたものだったのだと
そこで初めて気がついた。



(これは・・・・涙?  俺は 泣いているのか?)



泣くなどという無意味な感情を自分は持ち合わせていたのだろうか。
慣れない感覚に戸惑いながらも、視線を元の紗織の顔に戻した。
また、はたりと 溢れた液体が紗織の顔を濡らした。
それは閉じられた瞼の上に落ち、黒い睫の生え揃った縁を辿って
目の端から流れ落ちた。




「まるで お前が泣いているようだな」



男は少し唇を緩ませて言った。
頬に添えたままの手を またそっと動かして、
その滑らかな感触を脳に焼き付ける。



「お前の泣き顔は決して嫌いじゃない。
 むしろ一番好んでいるのかも知れない。

 泣くということは お前がお前であるという証だった。
 どうしたら泣き止むか 考えるのは面白かった」
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