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第11章 11
強い人間だと思っていた。自分でそう作り上げてきた。
そうでなくては生きてはいけない。
涙は弱者が流すもの。痛むような心はとっくに捨てた。

例えあっても常にこの身に巣食って根付き、あまりにも近く共に在り過ぎて
その存在さえも認識せずに済んだ。
どんな嘆きも悲しみも 俺を捕らえることは出来なかったはずだ。


 それが今、こんなに苛烈に この胸を切り刻む。



 ずきりと 男の胸は痛みを放って軋んだ。
まるで 鋭利な刃物を突き刺されて、身を貫かれているようだ。



「俺はきっと耐えられない

 どんな死も乗り越えても お前だけは

 お前を失うことだけは とても 耐えられそうにない・・・・」



死人のような顔を見ていると 喉が自然に閉塞し 息苦しく詰まる。
まるで 脳が呼吸の仕方を忘れた様 体が呼吸を嫌う様



 ほら みろ

 こんなところから 破滅が 俺を 飲み込んで行く



 そうだ。 俺は これが怖かった。
 眠りから覚めないお前を認めれば
 必ずこうなるという 確信があった。
 だから来れなかった。


 覚醒のない 永久的な眠り   それは死と どこが違うと言えるだろう。


 何度か、この病室の 入り口近くの廊下にまでは足を運べても、
 中に入って目の前にすることは とても出来なかった・・・


 そうやって、何とか 今日まで誤魔化してこれたのだ

 だが、それも もう 限界だ―――――



男は耐え切れず目を閉じた。
涙が はたはたと、落ちて、顔に沿えた自分の手をも濡らした。




「頼む・・・

 目を 開けてくれ・・・・」





その声は掠れて 自分にさえよく 聞こえなかったように思える。
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