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第13章 番外 前編
「紗織さん、おにぎりをもう一つ頂きません?」


「うん、食べる」


「紗織さん、桜餅は如何ですか?」


「食べる!!!」



柔らかな陽気が春色に膨らんで、景色が霞むような四月の日
昼食を桜の木の下で取ろうと言い出したのは、紗織だったか実和だったか。



「綺麗ね。

桜がこんなに満開で、しかも日曜日で、
しかも すっごくぽかぽかの暖かい日だっていうのに、勿体無いよね」


淡いピンク色の 桜の花を下から見上げながら紗織が息を洩らす。


「それは旦那様のことですか?」


「あ・・・ 」


和やかに笑いかける実和の言葉に、紗織は決まり悪そうに口篭もった。


「・・・・うん、えっと、そう」


桜餅を頬張る紗織に、実和は温かいお茶を差し出す。


「実和さんって、誰か居ないの?」


「誰か と言いますと?」


「それはもちろん・・・・
 あ、ひょっとして、実はもう結婚してたりとか?」


「いいえ、そんな 滅相もないことですわ。私が結婚なんて」


実和は苦笑する。


「旦那様の命とあらば致しますが、無ければするつもりはありませんの」 


「えええ??実和さん、そんなので良いの?」


「ええ」


実和は然も当然のことであるかのように、一度だけ首を縦に振る。
紗織はちらりと実和をみやる。


「・・・・ひょっとして実和さんて・・・あいつのこと・・・・・」


「あら、紗織さん。それは妬いていらっしゃるのかしら?」


「ちっ、違います! ただちょっと気になって・・・・」


「あらまあ。お顔が紅くなっていらっしゃいますけれど?」


ふふふ と実和は笑う。


「実和さんってさ・・・実はそうやって私のことからかっているでしょう?」


「あら、そんなことありませんわ」


「ううん、やっぱり楽しんでる!もう誤魔化されないんだから。
 ね、実和さんって、あいつのこと、どう思っているの?」


大きな瞳を瞬かせて、真剣な眼差しで問い掛ける紗織に
実和はくすりと微笑んで、顔を綻ばせた。


「そうですわねぇ・・・・・」


実和は 美しく折り重なる淡紅色の桜の花を見遣りながら、
ずっと昔の 懐かしい記憶を思い起こしていた。



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