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Secret space
第13章 番外 前編
脳の神経を麻痺させる強力な鎮痛剤が効いて
ぼんやりと夢と現を 彷徨う意識の中に、徐々に耳に馴染みだす歌曲のように
軽やかな少女の笑い声が聞こえた。


「嫌だわ、お父様。私、そんなに弱くなくてよ?
 でもこうしてここに来たのは お父様にお願いがあるからですの」


声が遠くて 少女と話す相手の声は聞こえない。
ただその響きの良い鈴を鳴らすような声だけが澄み切って
実和の濁った意識の中へとよく透る。


「実和と言うのでしょう?あの人、
 私付きにして下さらない?」


自分の名を聞いて、さらに明瞭に意識が底から浮き上がるのを感じる。

この声の主は誰?
こんなに日が高くて明るいというのに、私は何故眠っているの。
今日しなくてはいけない仕事が沢山あったはず・・・


「喜代さんがね、もう結構なお歳を召してしまったでしょう?
 体力的にも、私の世話はいろいろと大変だと思うの。
 そろそろ他の方に代わってもらって、
 幼いころから私のためにずっと働いて下さったのだから、ゆっくりとして欲しいの」


少しの間が開く。

なにやら低い声がぼそぼそと聞こえる。
こちらは話すその内容はほとんど聞き取れない。

その音を遮って、また少女の声が流れる。


「あら そんなの嫌ですわ。私はあの人が欲しいのよ。
 あの人、私と同じ年なのでしょう?
 私、同じ年頃の娘に飢えているんですの」


ころころと鈴の音の笑い声がした。


「そんな、お父様。私を誤魔化そうとしても駄目ですわよ?
 私も子供では無いのですから。お父様の悪癖ぐらいお見通しです。

 聞けばその方、亡くなったお母様に似ているそうね。
 それが益々、お継母様の嫉妬を煽り立てていると何故お気づきにならないの?
 お父様のお振る舞いは、あの人にもお継母様にも余りにも酷ですわ」
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