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Secret space
第13章 番外 前編
「奥様」とは、
実和を含む全ての使用人の主にして津々井家の当主、津々井芳明の後妻、津々井志津子のことだ。
先妻は、二子目の雅斗と名付けられた男児を出産したその日に亡くなったのだと聞く。
有名な財閥の名家に生まれ、蝶よ花よと大切に育てられた志津子は、
慎ましい身振り顔つきをした内側に、高慢で執念深い性格を秘めていた。
その女主人の持つ、煮え滾るような醜い憎悪が、
自分の身に容赦無く注がれる理由を 実和はよく理解していた。
志津子が津々井家に嫁いできたのは、実和が奉公にあがる八年も前のこと。
無類の女好きの当主は、志津子が嫁いだその翌日から、
寝室を別に設けた妻に寄り付きもせずに、時としては何日も屋敷を空けたのだった。
主が、志津子以外の女の元へと足を運んでいるのは自明の理。
それでも、志津子は嫁いで四年目に 男児を出産してはいた。
津々井家の長い家系の中、この家に生まれる男児には、
外見から判断はつかなくとも 生殖能力の欠如が見られるのは
医学知識の発達していない時代から既に、内にはそれとなく認識があった。
そんな事情の中、志津子が出産に至ることができたのは、主と閨を共にしたからではなく、
幾度となく彼女の身体に施された人工的な処置の結果なのだと 津々井家の者なら皆知っていた。
実和を含む全ての使用人の主にして津々井家の当主、津々井芳明の後妻、津々井志津子のことだ。
先妻は、二子目の雅斗と名付けられた男児を出産したその日に亡くなったのだと聞く。
有名な財閥の名家に生まれ、蝶よ花よと大切に育てられた志津子は、
慎ましい身振り顔つきをした内側に、高慢で執念深い性格を秘めていた。
その女主人の持つ、煮え滾るような醜い憎悪が、
自分の身に容赦無く注がれる理由を 実和はよく理解していた。
志津子が津々井家に嫁いできたのは、実和が奉公にあがる八年も前のこと。
無類の女好きの当主は、志津子が嫁いだその翌日から、
寝室を別に設けた妻に寄り付きもせずに、時としては何日も屋敷を空けたのだった。
主が、志津子以外の女の元へと足を運んでいるのは自明の理。
それでも、志津子は嫁いで四年目に 男児を出産してはいた。
津々井家の長い家系の中、この家に生まれる男児には、
外見から判断はつかなくとも 生殖能力の欠如が見られるのは
医学知識の発達していない時代から既に、内にはそれとなく認識があった。
そんな事情の中、志津子が出産に至ることができたのは、主と閨を共にしたからではなく、
幾度となく彼女の身体に施された人工的な処置の結果なのだと 津々井家の者なら皆知っていた。