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第13章 番外 前編
「ねぇ・・・雅斗。
 私、貴方にお願いがあるの」


「何?」


「ふふ、それはね、今はまだその時じゃないから言えないけれど、
 ただ、私は その時になったら雅斗にお願いをするから、
 そうしたら叶えて? それが、今言える私のお願い かしら」


雅斗は少し首を傾げた。


「とにかく、私が ある時、してって雅斗にお願いするから、
 そうしたら何が何でも、必ず聞いて頂戴。ね?わかった?」


「わかった」


「約束よ?」


「約束する」


「絶対よ?」


「・・・絶対にする」


溜め息混じりの雅斗の言葉を聞いて、早織は微笑んだ。


「それを聞いて安心したわ」


雅斗は黒い瞳でじっと早織を見つめる。


「・・・・実は、俺もひとつだけ  願いがあるのだけれど」


「雅斗が?私にお願い事?珍しいのね・・」


雅斗は早織の白い手を取った。

細い腕はひんやりとしていて、重みさえ無いようだった。
その手のひらを口元に引き寄せて口付ける。

早織の手が、ぴくんと動いた。
まるで痛みに耐えるかのように美しい眉をひそめる。
雅斗がゆっくりと口を開く。


「俺は、あなたを―

「駄目よ、雅斗。

 ―完全に 俺のものに したい」

 無理よ。それは、私には 叶えることは出来ないわ」


雅斗の言葉を遮って早織が声をあげた。
僅かに背もたれの角度をつけたベッドに、横たわった早織の身体の、
引き寄せた手のひらから、口付けの対象を僅かに上へとずらしてゆく。


「あ」


小さな吐息を、早織は洩らした。
青白いともいえる細腕に、点滴の為の内出血の赤紫の瘢痕が目に痛々しい。

美しい少女には酷く似つかわしくない、その醜く色の変わった箇所にも、
雅斗はしっとりと唇を落とす。
ぴくん と再び、早織が身を強張らせた。
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