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第13章 番外 前編
「ええ。でも大丈夫。
 あの子だって、そのうちきっと、慣れるでしょうから。
 どうか気にしないで?」


早織は忙しく動く手元の編み棒に視線を落としながらも明るく声を掛ける。


「そう、ですと宜しいのですが・・・」


しばらく間があった。
ひいふうと編み目を数えると、早織は思い出したかのように呟いた。


「母が、雅斗を産んですぐに亡くなったのは知っているでしょう?」


「はい・・・元からお体が弱くしていらした方だと」


毛糸をついばんでいた白い指先がぴたりと止まり、
実和の目をじっと見詰めると 奇妙な程、静かな口調で早織は言った。


「それであの子ね。
 母を殺したのは自分だと思っているのよ。
 自分が生まれたことで母親を殺したのだと思っているの」


「そんなまさか・・・」


絶句する実和に、早織はふと表情を緩ませて言った。


「酷い思い込みでしょう?
 いつかあの子、私にそう言ったの。
 吃驚して、すぐに違うって、怒って言い聞かせたのだけれど、
 たぶん今でもそう思っているんだわ・・・」


早織は悲しげに目を伏せた。長い睫が目元に影を落として、一層悲痛に見えた。


「どうしてそう思い詰めてしまったのかは分からないけれど。
 ・・・自分でそう思ってしまったのかしら。
 誰もそんなこと 言う筈は・・・・いえ、ひょっとしたら父のせいなのかも・・・。

 あんな父でも、本当はとても母を愛していたから。
 母を失った悲しみを、雅斗のせいにしてぶつけたの」
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