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第13章 番外 前編
ふと 俯きがちだった面をあげて、早織は実和を澄んだ目で見据えた。

 
「父がそれなりに有名な武道家なの、知っているでしょう?」


実和は僅かに頷いた。
津々井家の家柄は、有名な実業家であると同時に著名な武術家だ。
それよりも実和は、早織の口から初めて聞かされる事実に驚愕を隠せないでいた。


「父はね、まだ幼い雅斗に・・・稽古をつけるという名目で酷い折檻をしていた・・・

 私はね病院に行ったり来たりだったから、そのことに全然気が付かなかったの。
 あの子、何にも言わないから。どんなに苦しくても痛くても・・決して表に出さない子だから」

早織はそう言うと暗く俯いて、下唇をきゅっと噛んだ。

「あの子、よく骨を折っていたの。
 転んだとか、木から落ちたとか、皆も、あの子さえも口を揃えて言うから、
 私がこんなだから、あの子も体が弱いのかしらって 単純にそう思ってた。

 ・・・本当に馬鹿だったわ。不甲斐の無い姉よね。
 でもね、完治して、しばらく経つと、こんどは変な打撲。
 流石におかしいって気づいたわ。
 あの子が怪我をするの、いつもお父様が訪れた後なんですもの」


早織はそこで、一旦区切って、唇から小さくため息を吐いた。


「やっと気づくことができたのは、あの子が九つの時ね
 私、なんでもっと早く気づかなかったのかって、悔やんでも悔やみきれない。
 使用人に問い詰めたら教えてくれたの。 

 皆、きっと 最初から気づいていたのに。
 でも誰も父を止める人は居なかったのよ」


実和は何と相槌を打ってよいものか分からず、静かに沈黙を守った。
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