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第14章 番外 後編
「待って、雅斗」


山の頂近く、傾斜が緩やかになり
木々が少しだけ密集を解いた場所で、早織は雅斗を呼び止めた。


「この木よ。間違いないわ。
 見て、こんなに大きな桜だったのね」


早織のいう方向に目を遣ると、無数の枝を上空に向かって四方に広げ、
ずっしりとした幹を雪下の土に根を降ろしている大木が目に映った。
白い雪を側面にこびり付かせながらも、樹皮は濃褐色に色づき、横に裂け目が見える様子は、
まさしく山桜である証だった。

葉を持たないその巨木は細枝に雪を僅かに凍りつかせて、
残りはその幹下に振るい落として起立していた。


「雅斗、私を降ろして。この木の下に寝転んでみたいの」


「雪が深い。・・・見てわかるだろう?」


「構わないわよ。私、一度 雪に埋もれてみたかったわ。
 それが一遍に叶うの。素敵じゃない?」


雅斗は桜の木の下の雪を均して場所を作ると、
細心の注意を払って 背中の早織を地に降ろした。

早織は木に向かってゆっくりと天を仰いで身を横たえると、
ほう と溜め息をついた。

ふわふわと舞い落ちる綿雪が、六角の結晶を光らせて早織の顔に舞い落ちた。
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