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第14章 番外 後編
実和は、静かな微笑を浮かべた。


「一度だけ有りましたね、そう言う事が」


春風は人肌のように温かく、ふわりと吹き荒れ 桜の花びらを舞い上げた。


「・・・何?
 今、何て言ったの? 風で聞こえなかったわ」


目に塵が入ったらしく、紗織が何度も瞬いて擦りながら実和に聞き返した。


「紗織さん、宜しかったら桜餅、もうひとつ如何です?」


「え?実和さん食べないの?
 じゃあ私、遠慮なく食べちゃうよ?」


紗織は嬉しそうに手を伸ばすとぱく付く。
淡紅色のもち米と餡子のもったりとした甘さと、
桜の葉の歯ざわりのよい塩味を同時にかみ締め、
紗織は咥内に広がる味にうっとりとして笑みを洩らしている。

全て食べ終え、実和の差し出したお茶を喉に流し込むと満足げに息をつく。
そして ふと首をかしげる。


「・・・あれ?何か忘れているような・・・」
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