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第15章 連続四夜 第一夜
「・・・・・・・・・目を閉じてくれないか」


男がやっとのことで口を開いた。


「どうして?」


紗織が聞き返す。


「どうしてもだ。
 俺を泣かせたいのだろう?目を閉じて仰向けになれ」


何故か既に命令口調だ。

男は紗織の後頭部の下に差し入れていた腕を引き抜いて
起き上がって身を離す。
紗織は渋々と言葉に従う。一体、何をさせたいのか興味もある。
天井を見上げて、静かに目を閉じる。


・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


かなりの時間が経過した   と思う。
視覚以外の全ての神経を張り巡らせていたのだが、男は何もしてこない。
張り詰める肌に毛先さえも触れない。そばだてた耳に、吐息さえ聞こえない。
その奇妙な沈黙を、黒々とした瞼の裏側を見ながら、紗織は何とか耐えていた。


・・・・・・・・。

もう、目を開けてみてもいいかなぁ・・・・ 



痺れを切らし始めたとき

顔にぱたぱたと落ちる生暖かい水滴に、紗織は驚いて目を開いた。
すぐ目の前には見慣れない表情の男の顔。


「これで満足か?」


透明な雫を目から落として、男は少し傷ついたように微笑んだ。
悲しみに濡れた瞳はその暗い影を覗かせて黒く光った。


違う。そんな想いを させたかった訳ではない。


「・・・・・・・・・ごめんなさい」


紗織は腕を伸ばして、その身体に抱きついた。


『・・・馬鹿だ・・ 私は・・・。 決して 傷つけたいわけじゃないのに・・・・』


振動する心が 共鳴を起こして、紗織も泣きたくなってくる。

身体をぴたりと密着させると、首筋に音を立てずにキスされた。
くっ と強く吸われる。

男の吐き出す呼気がふわふわと皮膚の表面をすり抜けた。
くすぐったさに身を捩らせる。
それでも 情熱的な口付けは、場所を変え、幾度も繰り返される。
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