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Secret space
第17章 連続四夜 第三夜
それが現実的であろうと無かろうと
夢を夢と気付くのは困難だ。



闇は常に共に在る。


立ち上がった足元の影
固く握り締めた手のひらの中
そして 瞼を閉じた統べての視界

暗闇に終りは存在しない
上は無く下も無い


少年はそこに立っていた。

足の地に着くので、床はあるようだ。
足裏から感じ取れるのは、つなぎも摩擦も無い滑らかな感触。
それは、人工的 もしくは物質という物質を排除した床であることに間違いは無かった。

得体の知れない足下に広がる面は、時としては柔らかく、降り立つ足元に纏わりつき、
また時としてはカンと金属質な音を立て、硬く跳ね返した。

いずれにしても、だらしなく口を開けた空洞のような闇が、何処までも広がっている。



少年が歩く。

幼いながらも端正な顔に表情は無く、
むしろ惚けた色を黒い瞳に滲ませている。
まだ 背の小さく、華奢な身体はふらふらとしていて
夢遊病患者のような どこかおぼつかない足取りで、闇の出口を探している。


『お前が殺した』


闇が喋った。

少年はびくりと 肩を竦ませ、振り返る。
先ほどまで、ただの暗闇であったところに、無数の光が浮かんでいる。
それは点滅する信号のような赤でもあり、機械の作動状態を表すような黄緑でもあり、
色の見当はつかなかったが、その一組一組が二つに並んで浮かび上がる様は、
生物の眼の光そのものだった。

闇に浮かぶ瞳孔の無い発光体は、
あるものは遥か頭上の高い位置から少年を見下ろし、
またあるものは地を這うような低い位置から少年を見上げた。

彼らの獲物である少年の身体は、酷く怯えて微かに震えて、
ぐっとかみ締められた唇は、色を失って紫に染まるようだった。

闇は緩やかな円陣を組んで獲物の周りを囲みだす。
そして口々に囁きかける。


『お前が 殺した オマエガ殺した お前がコロシタ
 オマエガ コロシタ おま えがこ ろした』


抑揚も無くリズムも無い。
木霊する不気味な輪唱に耐え切れず、
少年は弾き出された弾丸のように走り出す。
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