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Secret space
第17章 連続四夜 第三夜
地球上のどんな速さを得たとしても、夜の空に不気味に浮かぶ青白い月は
ぴったりと後ろに張り付いて離れないように、
闇はどこまでもついてくる。

全身の力を振り絞って走る少年の呼吸は既に荒く、ぜいぜいと苦しく詰まっている。


『オマエガ――

「違う!!」


振り絞って叫んだ声は、闇が嘲笑いに掻き消され消えた。


「違う!  違う! 違う!」


少年はその場にうずくまる。
首を振り乱しては、しっかりと耳を塞いで、何度も絶叫する。
幼い声は徐々に掠れて裏返る。

そのうち だらりと、少年の小さな身体のあらゆる輪郭が解け、
水よりも油に近い液体が滴り落ち始めた。

少年は溶けた。

彼がうずくまっていた場所には黒く濁った水溜りだけが跡を残す。
古びた重油のような粘性を持ったその液体は、じんわりと床に広がると
時折、哀しそうに震え、チガウと誰にも聞き取れないような小さな音を発した。

闇の音のない薄笑いが聞こえるようだった。


こつ こつ と 
寸分の乱れも無く確かな足音が暗闇に響いた。

少年の水溜りをびしゃりと靴底で踏み躙って  男は現れた。

一度だけ、ざ と水面を薙ぎ払っては、そこに何もなかったように歩く。

わずかに濡れた足跡だけ残して、
真っ直ぐと、揺ぎ無い足取りで 男は闇の中を進む。


新たな獲物を狙って、目を爛々と輝かせて 闇が再び騒ぎ出す。
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