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Secret space
第3章 3
「実和さん」


先に声を出したのは紗織ではなく、部屋の外に来ていた別の女中だった。


「旦那様がお帰りです。お出迎えを」


「すぐに行きます」


彼女が答える。


「お話の途中ですみませんが、失礼いたします」


そう残して、機敏な動作で女は部屋から出て行った。

彼女の名前が実和だと知ったのはこの時だったはずだが、
紗織にはもう一方の言葉が大きく頭を支配して、
それどころではなかった。

 旦那様がお帰りに? そうあの女中は言わなかったか。
 旦那様とは誰か。
 地球は実は球体であるという確率以上に、
彼女達が言う旦那様とは、あの男であるに違いない。

もう一口だって料理を口に運ぶ気はしなかった。
眠っていた心臓が
無理やり叩き起こされたように鼓動を始めた。

部屋を出て、今日のほとんどの時間を過ごした、
日本庭園を眺めれる部屋へと戻った。
ピシャリとガラスの障子を閉めると、遠くから声がするのが聞こえた。

あの美人の女中の声だ。
何を話しているかはわからない。
ただ話し掛けている相手はあの男だろうと確信していた。

今更ながら、この屋敷から飛び出したい気持ちで一杯になった。


 どうして気づかなかったのだろう。
この屋敷いれば、またあの男に遭うのは当たり前なのに、
どうしてさっさと私は帰らなかったのだろう。
 でも帰るって、
 帰るってことは・・・・
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