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Secret space
第18章 連続四夜 第四夜
思えば全てが明らかになった今も、彼にそのことについて触れたことは無い。
男も決して口には出さない。
しかし確かに、開かない扉が こうしてここに存在するのだ。

性質の悪い病魔のように、時々表面に浮上してくる疑問、 それは、
男の中では私は出来の良い類似品に過ぎないのではないか というものだった。

一度は完全に絶えたはずだったのに、再び胸に巣食うと どうしても消せない。


つ と、人の動く気配がして紗織はその方向へ視線を向けた。
今しがた入浴を済ませたのだろう。
男の、すらりとした立ち姿が目に映る。
紗織に向かって真っ直ぐ廊下を歩いて来る。

薄い茶色とも灰色とも判断のつき難いくすんだ色の薄手のニットに
黒のシンプルなウールトラウザーズに身を包んだ男は、少し複雑な面持ちで紗織を見つめた。
実は、スーツと寝間着の浴衣以外の服装の男を見るのはこれが初めてだ。


「この部屋に入ってもいい?」


男が口を開く前に紗織は言った。
男は何も答えず、長い指がすいと戸の格子を操作すると、かたんと音がして鍵が開いた。


二十畳ほどの広さの部屋に、品のよい細工の施された桐箪笥、
膝より少し上の高さの横長い小物入れ、優雅な水鳥の絵が描かれた衝立
部屋の隅の、和室には不釣合いのベッドと、飾り棚の上の伏せられた写真たてと置時計。

いつか見た時と同じ風景がそこにあった。


「変わらないな・・・。いや、変わる筈も無いのだが」


男が静かに呟いた。
部屋を物憂げに見回すその端整な横顔を見つめる。


紗織は 試したくなった。

この部屋で。この場所で。


ぞっとするほど残酷な自分が居ることに驚く。

あるいはそれは 醜悪に淫らで、酷く嗜虐的な思考だろう。

男にとってある意味神聖な領域にあるで違いないこの部屋を、
わざわざ選んでそれを行うのは、おそらく 
侮辱するのに等しい行為なのかも知れない。

それを自覚して理性は戸惑った。

あとほんの少し。

奥深くに潜んでいた狡猾で残忍な分身が、
いつの間にか精密に作り上げ用意されたドミノの列の最初の一齣の背を、
理性ある自分が手を動かして
ほんの少し 押しさえすれば、
後はカタカタと雪崩のように 際限なく連鎖しては統べて進行していくだろう。
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