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第4章 4
(家に帰りたい。
 何事も無かったように家に帰って、ただいまと笑えば
 きっと二人も、おかえりって返してくれる。
 母さんが涙をこらえて、抱きしめてくれる。

『ごめんなさい、紗織・・・ごめんなさい。
 私たちが間違っていたわ。工場なんかよりあなたが大事よ。
 家を捨ててここから逃げましょう。
 家族で力を合わせて一からスタートすれば―――』

 なんて。
    嘘よ嘘・・・そんなの・・・・全部嘘。

 絶対に 言うはずもない言葉。)


紗織は手のひらに爪を立てて、両手を強く握り締めた。


(二人はもう私を捨てた・・・私をあいつに売り払った。
 例えそのとき受け入れたとしても、
 またあいつが迎えを寄越す。そして、その車にまた、私を乗せるんだわ。
 私がどんな目にあうか、全て知って置きながら!

 だって私は覚えてる。あの日の父さんの、何かを切り離した濁った目、
 母さんのひどく優しい、あの冷たい声・・・・)


「うぐっ・・・ああっ くっ・・・あっ・・・うぅ・・」


食い縛った歯の隙間から、噛み殺しきれない嗚咽が漏れる。

絶望的に泣き出す前に
今日ですっかり聞きなれてしまった静かな口調が
少し戸惑った様子で廊下から聞こえた。


「・・・・入ってもよろしいでしょうか?」


「あっ・・!!
 っく  
 ・・・まっ・・待って・ください・・ぅっく・・」


我に返って嗚咽を抑えようとしたが、一度ひどく泣き出した呼吸が
すぐには脳の指令どおりには戻らない。

身を起こして涙を拭いて、はだけた衣服を慌てて直しながら、
泣きしゃっくりが止まるのを待った。
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